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東京家庭裁判所 昭和62年(家イ)5474号 審判

申立人 竹下昌子

相手方 ラタパスカル・サバンナマリオホセ

主文

1  申立人と相手方を離婚する。

2  申立人と相手方の長女さゆみの親権者を申立人と定める。

3  申立人は、相手方が長女さゆみと誕生日を含め少なくとも年2回面会することを認めなければならない。面会の日時、方法等の細目については、申立人と相手方は人間的配慮をもつてその都度協議しなければならない。

理由

1  申立人は主文1、2項と同旨の調停を求め、調停期日において、主文1、2項記載の合意が成立した。また、調停の過程において、主文3項記載の合意が成立した。

2  一件記録によれば次の事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は、昭和58年頃ペルーで知りあい、同年12月2人で我が国に来日し、昭和60年6月28日に婚姻した夫婦である。申立人と相手方の間には昭和60年9月21日長女さゆみが誕生している。

(2)  申立人と相手方は、婚姻の直後頃から結婚生活に対する意見の違いが表面化し、申立人において相手方の女性関係を疑つて相手方に不信感を募らせ、逆に、相手方において、申立人の両親が夫婦の問題に干渉しすぎるとしたり、申立人の相手方に対する愛情を疑うなどして、夫婦はその亀裂を深めていつた。そこで、申立人は相手方との離婚を決意して、昭和62年7月頃長女さゆみを連れ相手方と別居するに至つた。

(3)  申立人と相手方は、今日に至るまで結婚生活の修復或は離婚について話合いを重ねてきたが、申立人の両親の影響から離れさえすれば夫婦の結婚生活は回復できるとする相手方と、申立人の両親と離れたからといつて申立人と相手方の関係は修復できないとする申立人と意見の食違いは大きく、これ以上話し合いを重ねても、結婚生活修復のため申立人と相手方の意見が一致することは困難な状況に立ち至り、結局、主文同旨の合意が成立することとなつた。

3  以上を前提に本件申立の当否を検討する。

(1)  まず、相手方は我が国に住所を有するので、我が国に国際裁判管轄権が認められる。また、我が国における管轄権については、相手方が合意しているため当庁にそれを認めることができる。

(2)  本件離婚に関する準拠法は、法例16条に基づき夫の本国法であるペルー法となる。また、子の親権者を定めること及び子に対する面接交渉を定めるについての準拠法は、法例20条により父の本国法であるペルー法となると解される。

(3)  ところで、ペルー国法によると調停離婚は認められておらず、裁判離婚のみが認められている。したがつて、本件調停を成立させることはできないが、我が国家事審判法24条に基づく審判は、資格を有する裁判官が事実審理をしたうえで法律を適用して行なうものであり、ペルー国法による判決と同視しうると考えられるので、本件において、ペルー法に基づき裁判離婚が成立する事情が存するならば、家事審判法24条に基づく審判を行なうことが可能と考えられる。

(4)  そこで、ペルー法に基づく裁判離婚の成否について検討するに、申立人と相手方は結婚後2年以上を経過しているが、相互の意見の不一致のため、結婚生活を維持することは困難な状況にある。したがつて、ペルー国民法典247条10号、270条2号に定める離婚事由が存する。また、同国法255条、393条に基づき、長女さゆみの親権者は母である申立人と定めることができる。さらに、同国法289条は「裁判官は判決中に、子女の監護に関し、親との音信が絶えることなきよう注意して規約を設けるものとする。」と定めているところ、同条は子との面接交渉に関する規約を裁判官が判決中で示すことを認めた条文と考えられる。そして、当事者間の面接交渉に関する合意は相当なものと認めることができるため、この合意を、裁判所が離婚判決中に設ける規約として認めることが相当と思われる。

(5)  なお、我が国家事審判法上、子との面接交渉に関する事項は、乙類審判事項とされ家庭裁判所の専権事項とされているうえ、本件においては離婚にともない同時に定めるべき付随事項と考えられるので、家事審判法24条に基づく審判により当裁判所がこれを定めることは、我が国法上障害となるものではない。

4  以上によれば、本件申立は理由があり、かつ、主文3項記載の合意が成立している本件においては、家事審判法24条に基づき審判を行なうのを相当と認め、家事調停委員○○○○、○○○○の意見を聴いたうえ、主文のとおり審判することとする。

(家事審判官 山名学)

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